2026年11月3日に投開票された米国の中間選挙で、民主党が上院・下院・州知事選のいずれでも大きく議席を伸ばしました。今回の選挙では、AI向けデータセンターの建設が電気料金や地域の暮らしに与える影響が争点の一つになり、建設の一時停止を掲げた候補が複数の州で知事に当選しています。この記事では、選挙結果とトランプ大統領の発言を整理したうえで、データセンター建設への影響について金融機関のアナリストや企業経営者が語った見方をまとめます。

※数値は11月5日(米国時間)時点の報道に基づく速報・推計です。未確定の議席があり、今後変わる可能性があります。

選挙結果:民主党が上下両院と知事選で大きく前進

2026年米中間選挙の結果(上院・下院・州知事)

上院:7議席を奪い、過半数を奪還

選挙前は共和党が53議席、民主党が47議席でした。民主党はカンザス、アイオワ、テキサス、オハイオ、メイン、ノースカロライナ、サウスカロライナの7州で共和党の議席を奪い、少なくとも54議席を確保したと報じられています(CBS News、Northeastern Global News)。

  • テキサス:民主党のジェームズ・タラリコ氏が共和党のケン・パクストン氏に勝利。イーロン・マスク氏がパクストン氏の支援に2億2,400万ドルを投じたと報じられる中での勝利で、民主党が同州で州全体の選挙に勝つのは32年ぶり
  • メイン:民主党のトロイ・ジャクソン氏が、長年現職を務めた共和党のスーザン・コリンズ氏を破った
  • 未確定:アラスカ(ダン・サリバン氏とメアリー・ペルトラ氏の接戦)とミシシッピ(民主党のスコット・コロム氏がわずかにリード)

下院:民主党が大幅に議席増

CBS Newsの推計では、民主党は選挙前の214議席から256議席前後まで議席を伸ばす見通しです(未確定の選挙区を含む)。民主党は40以上の選挙区で共和党から議席を奪い、共和党下院選挙委員会(NRCC)委員長のリチャード・ハドソン氏や、ニューヨーク州のマイク・ローラー氏も議席を失いました。

州知事:5州で共和党から民主党へ

民主党はテキサス、ジョージア、オハイオ、アイオワ、ネバダの5州で共和党から知事ポストを奪いました。CNBCによると、民主党の知事は少なくとも28州となり、2010年以来初めて過半数を占めます。後で触れるとおり、このうち複数の州で、データセンター建設に厳しい姿勢を示した候補が当選しています。

トランプ大統領は何と言ったか

トランプ大統領は敗北の原因を自身以外に求めつつ、結果は受け入れ、民主党とも協力する姿勢を見せています。一方で、大統領の拒否権を繰り返し強調しました。

  • 投票日の夜(Truth Social):自分は投票用紙に名前がなかったとしたうえで、「もし(自分が候補だったら)、われわれは地滑り的な大勝利を収めていただろう!」と投稿(Northeastern Global News)
  • 結果の受け入れ:結果を受け入れる考えを示し、米紙に「その結果を受け入れる用意は十分にある」と語ったと報じられています
  • 民主党との協力(3日夜、Politicoに):「われわれは民主党と協力していく」(CBS Newsが引用)
  • 拒否権(3日、投票締め切り前のCBS記者との電話):「私には究極の権限がある。それは『拒否権』だ」
  • 4日、記者団に:「民主党とはおそらくうまくやっていくだろう。彼らが破壊的なことをしようとしない限りは。だが私には拒否権がある」(CBS News)
  • 4日、CNBCの電話取材に:民主党とは「互いにとって良い多くの経済的なアイデア」で協力できると発言。関税については「関税をやめれば、いま建設中の3,000の工場がすべて建設を止めることになる」と述べた
  • 敗因について:CNBCによると、トランプ大統領は自身が始めたイランとの戦争と、それに伴う燃料価格の上昇が敗北の一因になったと認めています

なお、確認できた報道の範囲では、トランプ大統領が選挙後にデータセンター建設そのものについて具体的に言及した発言は見当たりませんでした。ただし、議会が成立させた法案に拒否権を使う考えを示していることは、後で紹介する専門家の見方にも関係してきます。

なぜデータセンターが争点になったのか

AI需要の急拡大でデータセンターの建設が相次ぐ一方、電気料金の上昇や水の使用、騒音などを理由に、地域住民の反発が強まっていました。今回の選挙では、その不満が投票結果にはっきり表れました。

  • 住民投票:CNBCとBallotpediaの集計では、10州で行われたデータセンター関連の住民投票41件のうち、40件で建設に反対する側が勝利しました
  • 世論調査:CBS Newsの世論調査では、自分の地域に新しいデータセンターを建てることに反対する人が、賛成する人の2倍以上いました
  • 出口調査:TechCrunchが伝えたNBCの出口調査では、自分の地域でのデータセンター建設に反対する人が約8割、データセンターを「投票の重要な要素」とした人が約6割にのぼりました
知事が交代した主な州とデータセンターをめぐる公約

知事選で勝った民主党候補の公約も、データセンター業界にとっては大きな変化です。

  • テキサス州(ジーナ・イノホサ氏):新規データセンターの許可を州全体で一時停止することを提案。建設中の案件は対象外になると報じられています。大手開発業者への補助金や税優遇の撤廃も掲げました
  • ジョージア州(キーシャ・ランス・ボトムズ氏):CBSの番組で、就任後に行政命令で建設を一時停止し、そのうえで必要な対応を決めると表明。税優遇も見直す方針です。ジョージア州は全米3位のデータセンター市場です
  • オハイオ州(エイミー・アクトン氏):開発業者が電気料金を全額負担し、組合の労働者を使い、環境基準を満たすことを条件とする「条件付きモラトリアム」を主張しました

専門家の見方

選挙結果を受けて、金融機関のアナリストや企業経営者からさまざまな見方が出ています。大きく分けると「建設は鈍化する」という見方と、「影響は限定的」という見方があります。

「建設は鈍化する」とみる見方

ゴールドマン・サックス(ヤン・ハッチウス氏率いるエコノミストチーム)

「州・地方レベルでの民主党の勝利は、AIとデータセンターの規制に大きな影響を与える可能性が高い」と分析。テキサス、ジョージア、ミシガンの民主党知事が、新たな法律ができるまで条件付きのモラトリアム(建設停止)を課すと予想しています(Business Insider)。

ジェフリーズ

今回の選挙を「短期的には最悪のシナリオ」と表現。2030年までの米国の新規データセンター容量の予測を、122.4ギガワットから112.8ギガワットに引き下げました。アナリストのジョナサン・ピーターセン氏は「データセンターは引き続き建設されるが、参入障壁は高まっており、新規着工はより友好的な州に移るはずだ」と述べています。規制リスクのある州として、ニューメキシコ、オハイオ、ミシガン、カンザス、ネバダを挙げました(Business Insider)。

野村証券

民主党知事の誕生で許認可や規制が厳しくなり、新規開発が遅れる可能性があると指摘。ただし2027年に稼働予定の容量の多くはすでに建設中のため、影響が大きくなるのは2028年以降だとみています(CNBC)。

ダン・アイブス氏(Yorkville Ives & Co.)

計画中の800〜1,000カ所のデータセンターが影響を受けるかという問いに、「答えは明確にイエスだ」と回答。2030年までに稼働予定の容量の25〜30%をテキサス州が占めるとして、「テキサスは米国のAIインフラ構築の土台だ」と述べています(CBS News)。

GLJリサーチ(ゴードン・ジョンソンCEO)

イノホサ氏の勝利で、テキサス州の13ギガワット分のデータセンター電力計画が止まる可能性があると指摘しました(CBS News)。

モルガン・スタンレー

オハイオ州のアクトン氏の当選は、同州のデータセンター建設にとって「大きなリスク」になるとの見方を示しています(TechCrunchがロイター報道を引用)。

キャピタル・エコノミクス(ジョー・マーハー氏)

「当面のリスクは、データセンター建設の規制がAIインフラ構築のペースを鈍らせることだ」と指摘(CBS News)。

メタ(ダイナ・パウエル・マコーミック社長兼副会長)

ウォール・ストリート・ジャーナル主催のイベントで、「いま米国で新たにデータセンターの建設を始めるのは非常に難しくなるだろう」と発言。「どのハイパースケーラーも『米国外に建てる必要があるのか』を考えている」とも述べました(Business Insider)。

「影響は限定的」とみる見方

JPモルガン

ストラテジストは、2027年の設備投資予測に「大きな変更」は見込んでいないとし、影響が出るとしても2028年以降に「ある程度」にとどまるとみています。「データセンターの開発・展開全体が鈍化することは、必ずしも悪いことばかりではない」とも指摘。同社のジェームズ・サリバン氏は、供給が制約されることで「既存の容量の価値が大きく高まっている」と述べています(Business Insider、CNBC)。

フランクリン・テンプルトン(スティーブン・ドーバー氏)

建設ペースは鈍化するとしながらも、「歯止めのない拡大は少し抑えられるだろうが、おそらく大きくはない」との見方です(CBS News)。

ゴールドマン・サックス

州のモラトリアムが実施されたとしても「長くは続かない」とし、全国一律のモラトリアムは「起こりそうにない」としています(Business Insider)。

エドワーズ・アセット・マネジメント(ボブ・エドワーズ氏)

「大統領にはまだ拒否権があるので、ブルーウェーブがAIインフラ構築に与える影響は心配していない」と述べています(Business Insider)。

コストと地域負担への注目

プリンシパル・アセット・マネジメントのシーマ・シャー氏は、開発業者が送電網への投資を求められたり、税優遇を失ったりして、コストが上がる可能性を指摘しています(CBS News)。オックスフォード・エコノミクスも、データセンターに厳しい姿勢がとられれば、今後のプロジェクトの期間が延びるとみています。

市民団体の側からは、カラー・オブ・チェンジのナディーン・スミス氏が「民主党は巨大IT企業に負担させることを掲げて選挙を戦った。カメラが去った後も、それを忘れさせないのがわれわれの仕事だ」と語っています(TechCrunch)。

株式市場の反応

データセンター建設への影響を示す数字(容量予測・住民投票・株式市場)

選挙翌日の4日は、ダウ工業株30種平均が1,500ドル以上上昇し、マイクロソフトやアマゾンなどが大きく値上がりしました。一方、コアウィーブやネビウスなどデータセンター関連株は下落しています(CNBC)。

5日には売りが広がり、ダウ平均は1,833ドル(3.4%)下落、ナスダック総合指数は5.5%下落して調整局面入りしました。エヌビディアは9.2%、AMDは17.3%、コアウィーブは9.8%下落しています(CBS News)。

時間軸で整理すると

専門家の見方を時間軸で整理すると、次のようになります。

  • 2027年まで:稼働予定の容量の多くはすでに建設中のため、影響は小さいとの見方が多い(野村証券、JPモルガン)
  • 2028年以降:許認可の遅れや規制の不確実性の影響を受けやすい(野村証券、JPモルガン、ジェフリーズ)
  • 立地の変化:規制の厳しい州から、より友好的な州へ新規着工が移る可能性(ジェフリーズ)。米国外での建設を検討する動きも(メタ)
  • 連邦レベル:全国一律の建設停止は起こりにくいとの見方(ゴールドマン・サックス)。議会で規制法案が通っても、トランプ大統領が拒否権を使う可能性がある

まとめ

今回の中間選挙で、データセンターは電気料金や地域の暮らしと結びついた身近な争点になり、建設に慎重な民主党の知事が主要な集積地で誕生しました。専門家の多くは、すでに建設中の案件への影響は限られる一方、2028年以降に計画されている案件では、許認可の遅れや立地の見直しが進むとみています。

ただし、知事選での公約がどこまで実行されるかは、各州の議会や今後の交渉次第です。AIインフラの建設ペースは、クラウドやAIサービスの価格・供給にも影響します。日本企業にとっても、米国の州ごとの政策の動きを注視する必要がありそうです。

参考にした報道